『家庭教師派遣業シリーズ①』

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私は20代の頃に、1年半くらいの間、教育関係のお仕事をしていた時期があります。仕事内容は、主に、中学生のお子さんがいる家庭にお邪魔して、家庭教師のシステムを紹介することでした。

私がこの仕事を始めたきっかけは、自分自身が中学時代に塾にも通わずに学校の成績が良いほうだったので、自宅学習が大切だよ!ってことを勉強でつまずいている中学生たちに教えたかったからです。

私が働いていた家庭教師派遣会社を、仮にA社と言っておきましょう。

A社は都内のマンションの一室にあり、大きさは20畳くらいでしょうか、1ルームマンションでした。私がA社に面接に行った日のこと、ドアを開けて部屋に入ると、真ん中の席に男性が1人、壁際に10人ほど私服を着た学生風の子たちが電話をかけている。真ん中の男性もどこかに電話をかけている。事務の女の子が、「面接をするマネージャーがいま電話中なので待っていてください」と言ってきて、テーブルに案内された。

テーブルにはビデオデッキとモニターが置いてあって、事務の女の子が再生してくれた。「しばらくの間、このビデオを見ておいてください」とのことだった。
そのビデオは、中学生と母親に対して、家庭教師システムを紹介している学生風の関西人が写っていた。あとで分かったことだが、その学生風の関西人は、A社とは同じグループだが、別の支店のマネージャーだということが分かった。

意味も分からず、私はビデオを見続けた。あいかわらず電話をしており、なかなか面接が始まらない。1時間くらい経過しただろうか、ビデオも見終わってしまい事務員の女の子が「ごめんなさいね、もうすぐ電話終わると思うので」と、申し訳なさそうな顔で私に言ってくる。

適当に暇を潰していると、真ん中の席に座っている男性の電話が終わり、私に近づいてきた。
その男性は「待たせてしまったね、ごめんね」と優しい口調で私に語りかけてきた。

その男性が、A社のマネージャーだということが分かった。さっきのビデオに写っていた関西人と同じポジションのようだ。

面接が始まって、私個人のことを詳しく聞いてくることはなかった。私が高卒であることを伝えると、マネージャーさんも高卒だということが分かった。実際には大学中退したらしいのだが、なぜか高卒である私に共感をしてくれたことを覚えている。

面接では「やる気があれば」やってみてとのことだった。

肝心な給料の話を聞くと、みんな完全歩合制で働いているとのことだった。たしか求人誌には「時給1500円」と書いてあったので「アレ」っと思った。

ただ、話を聞いてみると、完全歩合のほうが稼げるとのことで、たしかにその通りだと思った。ちびちび時給で働くよりも給料に上限がない完全歩合でも良いかなと思うようになった。

私が、A社で働こうと思った決め手は、完全歩合で稼ぎたいとう期待もあったが、「とにかく学校の教科書が大事」というA社のコンセプトに共感したからだ。

親に無理やり塾に通わされ、成績が伸びずに、「塾代だってバカにならないのよ!」と母親に罵倒される中学生も多いとのことで、「そういった中学生」を救いたい気持ちも芽生えてきた。

面接当日に、A社で働くことが決まった。即決である。

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