『家庭教師派遣業シリーズ②』

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家庭教師派兼業のA社で働くことになった私は、このあと3ヶ月間も給料0円状態が続くとは思ってもみなかった。3ヶ月間も何をしていたのかと言うと、まず最初に私がやったことは営業トーク集を覚えることだった。最後まで覚えるのに1ヶ月はかかったと思う。A4の紙にはびっしりと文字が書かれていて、それが30ページくらいあっただろうか、とにかくこれを覚えない限り、中学生のところへ行くことはできないのだから、覚えるしかなかった。覚えない限り、一銭も稼ぐことはできない、これが完全歩合の現実だ。

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マネージャーの話によると、中学生のご家庭にお邪魔して家庭教師システムの説明は、一語一句決められているようだ。誰が訪問しても同じトーク集で同じ説明をする活気的なシステムだと思った。なぜならば、私はもともと営業をするようなタイプではない、どちらかと言うと口下手だし、相手を言いくるめるほど口が上手いわけではない。だから事前に何を説明したら良いのかマニュアルになっているほうがありがたかった。

私がどのくらいトーク集を覚えているのか?2,3日おきにマネージャーがチェックをしてくれるとのことも、サボらずに頑張れた理由だと思う。A社で働いている先輩の中には、なかなか覚えることができず半年くらいチェックが続いた人もいるというから、それにくらべれば私は記憶力が良いほうだそうで、少しばかり優越感を得た気持ちになった。このペースならばすぐにでもデビューできると思っていた。

入社から1ヶ月半くらい経過した頃だろうか、私の他にも同期がいたはずなのだが、自然と消えていったらしい。そして、すでに中学生のお宅に説明をすることができる先輩たち3人ともA社内で顔を合わすようになった。別に仲良くなろうとは思わなかったが、面接に来てもやめていく人のほうが圧倒的に多かったので、先輩たちも私に話しかけることもしなかったっぽい。

それでも、何度か顔を合わせるようになると、「生き残ってるな!」的な目で見てくるようになった。私のトーク集チェックがすべて終わろうとした頃には、先輩たちと話す機会も増えてきた。

私のデビューがそろそろ近づいてくる、そんな雰囲気を感じた。

 

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